原摩利彦(音楽家) 試聴記事
数々のTVCMの音楽や5月に公開されるNODA・MAPの新作「フェイクスピア」の音楽・効果を手掛ける一方、
昨年発表した自身のソロアルバム「PASSION」や
2016年以来となるPolar Mとの共作EP「Our Seasons」も話題の音楽家 原摩利彦さんに
REVOXのコンパクト2ウェイ・スピーカー Piccolo S60を実際に聴いていただき、
レビュー記事を執筆していただきました。
REVOX Piccolo S60 | "音のよいパッシブ型の小型スピーカーがよいものにやっと出会えた"
何よりも最初に小さくて驚いたが、程よい存在感がある。このスピーカーの用途を考えてみると、リビングやワーキングデスク、
あるいは店舗で使われるのではないかと思い、主にSpotifyやApple Musicなどサブスクリプションで再生することにした。
再生環境は以下の通り。
Macbook Pro Retina 15” =>RME Fireface UCX(オーディオインターフェイス) => SSL SiX(ミキサー)=>audiolab 8300A(アンプ)=> REVOX PICCOLO S60
最初にグレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲をかけてみた。
ぽつりとしたピアノの音はとても気持ちいい。
中域が膨らんだり、過剰に作り込まれたようなこともなく「素直な」音の印象をまず受けた。
グールドの録音は彼の声が入っていることが有名だが、ピアノの奥で埋もれることなく聞こえる。
次にGoldmundのピアノ作品『Image-Autumn-Womb』。
この曲は(おそらく)アップライトピアノのハンマー音が美しく、音も左右に移動する。
このスピーカーと相性がよく、低音部の残響もはっきりと鳴っている。音の位置も明確に捉えられる。
Arpの『Reading a Wave』はピアノやウッドベース、サックス、ドラム、エフェクト音が自由に絡み合うが、
音像はぐちゃぐちゃにならずに「すっきりとした混沌」を味わえる。
ウッドベースの弦の張りも気持ちよく、低音もある程度はでる。
Rythm&Soundのようなダブのファットな低音は厳しいが、
この小さなスピーカーでダブを存分に楽しみたいのならサブウーファーを接続した方がよいだろう。
しかし歪んで再生できないということは全くない。
それではオーケストラはどうだろうとマーラーをかけた。ストリングスの厚みもよく感じられ、それぞれの声部もよく聴こえる。
大迫力を求めないのであればとてもよい。
またハープも相性がよいのでドビュッシーのハープとオーケストラのための作品も楽しんだ。
クリス・ワトソンの『Invertebrate Harmonics』。
虫の声はすぐそこで鳴っているような気がするし、
また何度も繰り返されるフレーズとともに部屋に奥行きのある音響空間を作ってくれる。
ギャラリースペースのために作った拙作『3 States for TRANSDUCER』も気持ちよく、鳴ってほしい音で聴かせてくれた。
合わせてフェネスのマーラーリミックスもよい。
ボーカル曲は小さい音量にしても声がよく聞こえて、部屋でかけておくと素敵な音楽空間になる。
音数のそれほど多くないシンプルなトラックの方がこのスピーカーには合ってるように思える。
例えば、ブルーノ・メジャーの『Old Fashioned』など。
小さいスピーカーはこれまでも探していたが、なかなかよいものに出会えなかった。
というのもMacbook Proの内蔵スピーカーの性能がどんどん上がってきたので、
USB接続の小型スピーカーを使う場面はなくなり、
それより大きいものだとメインモニターに使っているRL906やサブで使用しているEclipse TDM-1でよいじゃないかとなる。
音のよいパッシブ型の小型スピーカーがよいものにやっと出会えたという気がする。
冒頭にも書いたが、お店のBGM用スピーカーにもよいと思う。
ただ少し惜しいのは、スピーカー前面についているREVOXのロゴである。
立方体の洗練されたデザイン哲学を感じさせてくれるのにこのロゴはゴツゴツしていてやや違和感がある。
REVOXのサイトに掲載されている数十年前のオープンリールの再生機のデザインとは合っていてかっこいいのだが。
インテリアをこだわり、自分の好みの空間を作っている人にはこの点がマイナスになるかもしれない。
試聴した楽曲をプレイリストにしたので、もし購入された方は楽しんでいただけたら幸いです。