真鍋大度さん(Rhizomatiks Research 代表) インタビュー
2006年に共同設立した日本を代表するクリエイティブ集団Rhizomatiksの取締役、
Rhizomatiks Researchの代表を務める一方で
世界的なアーティスト、プログラマー、DJとしても活躍する真鍋大度さん。
彼はmusikelectronic geithain(以下ムジーク)のユーザーでもあります。
今回は真鍋さんに愛用しているムジークのスピーカーや最近のお気に入りの音楽についてお話を伺いました。
-本日はお忙しい中ありがとうございます。早速ですが、現在お使いのムジークのモデルを教えてください。
RL904とサブウーファーBasis11Kで2.1ch構成にしています。
-ムジークのスピーカーですが、どういったきっかけで知りましたか?
坂本龍一さんの作品を通じて知りました。
高谷史郎さん(dumb type)に頼まれて山口(2007年/YCAM=山口情報芸術センター)で坂本龍一さんのLIFEという作品の映像のプログラムを書く仕事をしたんですが、その時が最初だったと思います。
その後もムジークのスピーカーはSensing Streams -invisible, inaudible(坂本龍一さんとの共作)を 札幌国際芸術祭、メディア芸術祭等で展示した時も使用しました。
Ryuichi Sakamoto + Shiro Takatani "LIFE-fluid, invisible, inaudible..." (2007)
Ryuichi Sakamoto + Daito Manabe "Sensing Streams -invisible, inaudible" (2015)
-世の中にスピーカーは数多くありますが、その中でムジークを選んだ理由はありますか?
もともと長く使ってたスタジオモニターがあったんです。
それは(RL904と)同じぐらいのサイズのもので、
子供の頃過ごした家にあったスタジオモニターと同じブランドのものです。
その頃はジャズやヒップホップなどそれほどハイファイではない、いわゆる生楽器をそのままレコーディングしたものや、そういう音源をサンプリングした楽曲を聴くことが多かったので、そのブランドの乾いた音が好きだったんです。
そこから自分の聴くものがだんだん音響っぽいものに変わってきました。
コンピューターで作る音、プログラムで生成する音(を使った音源)が増えてきて、
そういった音源をそのスタジオモニターで聴くのとムジークで聴くのとでは全然違うなと思ったんです。
コンピューターで作った音源には倍音がなかったりしますし、サイン波だけで鳴らすということもあります。
そういうものをムジークで鳴らすとすごくよく聴こえるんです。すごく艶っぽく聴こえるというか・・・
それが欲しいなと思った理由です。
アクティブ・2ウェイ・モニター RL904
-導入していただきありがとうございます。現在はどのような用途で使用されていますか?
基本的にはリスニングで使っています。
もちろん曲をつくる仕事や舞台作品の音源のミックスをしたりする時にも使いますが、ゆっくり音楽を聴くという用途が主です。
サブウーファー(Basis11K)も使っているんですが、僕が好きな音楽はすごく低音が出ている音楽や、
それこそ30Hz、 40Hzという低域に面白さがある曲が多いのでサブウーファーは必須ですね。
このサブウーファーの鳴りも含めて気に入っています。
10インチ・アクティブ・サブウーファー Basis11K
-ムジークからうける音の印象はありますか?
音っていうのは言語化するのが難しいので、あくまでイメージになってしまいますが、
ムジークを通して聴くとすごく豊かな音になるなっていうのは感じます。
先日discrete figuresというダンス作品でも(FOHシステムとして)使用したんですが
その時もPAシステムと比べると全然鳴り方が違ったという印象です。
それはムジークが大きい音を出しても耳が疲れないというのもあると思っています。
先程もお話しましたが、僕はサブウーファーの鳴りも含めて、大きい音で聴かないと楽しめない音楽を聴くことが多いんです。
音楽を大きい音で再生したときに自然な音で再生されないと疲れてしまいますが、ムジークはそれが無い。
それも僕の印象なのでサイエンスの話ではありませんが。
-真鍋さんはDJ VJとしても活躍されていますが普段はどういう音楽を聴きますか?
聴くジャンルは本当にピンきりですが・・・
最近聴くのは、レーベルでいうとWarpっていうと分かりやすいですかね。OPN(=Oneohtrix Point Never)とか。
DJをやるときはフロアベースなのでループする音楽が多くなりますが、
普段のリスニングはもっとビートがないものを聴いています。
それこそ坂本さんのアルバムやリミックスアルバム。
それと、Editions Megoというオーストリアのレーベルの音源はよく聴きます。
ですのでDJでかける曲と普段のリスニングの曲は全然違います。
-確かに、先日の公演(discrete figures 東京公演)のSEでPetre Inspirescuのアルバムvin plolieからも選曲されてましたね。
ああいった生楽器主体のミニマルでダウンテンポな曲も聴かれるんだなと思いました。
そうですね。わりとなんでも聴きます。
それと人から勧めてもらった曲を聴く事が多いです。
なのでアーティスト名とか曲名とかはあまり分かっていないんですが(笑)。
-ソース(音源)としてはデータが多いんでしょうか?
僕はほぼデータですね。ここ、自分のスタジオで音楽を聴くときはアナログも聴きます。
音楽をアナログで聴く良さというのももちろんあって、
それはそれでムジークとの相性の良さもあると思っているんですが、
僕は旅も多いのでデータで持っていたいというのがあります。
ただ自分の生活スタイル上オフラインになることも多いので、データではあるけれどストリーミングで聴くことは少ないです。
-所有したいということなんですね。ファイルのフォーマットはどのようなものですか?
WAVファイルです。Warpの音源なんかは24bitで販売しているのでそれを購入しています。
サンプリング周波数は48kHzくらいのものが多いです。
いわゆるハイレゾ音源(96kHz/24bit以上)というのはそんなに多くありません。
-最近のオススメの曲などあれば教えてください
せっかくなのでアンダーグラウンドなものを紹介したいですね。
最近よく聴いてもいるし、(DJで)かけたりしているのはkrakaurというアーティストです。
彼には先日のdiscrete figuresでも一曲提供してもらったり、別の曲はSEでも使用しました。
あとはFour tetの新しいアルバムも面白かったですし。
Editions Megoの中だとPITAというノイズ系アーティストの楽曲も聴いています。
WarpのYves Tumorのアルバムも面白かったです。
-そのdiscrete figures 東京公演(2018 8.31-9.2 スパイラルホール)ではムジークをFOHのサウンドシステムで使用していただきましたが、
PAスピーカーではなくスタジオモニターであるムジークで拡声するというところに何か意図があったのでしょうか?
この作品は作品全体の中で音楽の占める要素が大きかったので、
まずはちゃんとした音でお客さんに届けたかったというのがあります。
音響的な面白さが入っている曲やラウドに鳴らしたほうが良い楽曲が多かったんですが、
全編鳴りっぱなしだと疲れてしまう。
そこでムジークのようにちゃんとした音で鳴っているけど疲れない、なおかつ解像度が高いスピーカーを使えると良いなと思って選びました。
Rhizomatiks Research x ELEVENPLAY x Kyle McDonald "discrete figures" (2018)
-実際に公演で使用してみていかがでしたか?
ムジークを使っていて思うのは定位がすごくはっきりするという事です。
どこから音が鳴っているかが判る。奥行きがあり立体的に聴こえるんです。
実はあの音源は違う場所、モントリオール公演 サンフランシスコ公演でも使った音源で、
その2つの公演ではPA用のサウンドシステムを使用していました。
ですがムジークで鳴らすといろんな粗が見えてきてしまって、それは直すいいきっかけになりましたね。
非常に細かいところが見えてくるので、今回の東京公演に際して改めてミックスや音の細かい微調整をやり直しました。
僕はスタジオモニターで音楽を聴くと疲れるし、楽しくないという印象があったんですが、
ムジークはそれが緩和されている感じがします。
正しい音であり、楽しさがある、
ちょっと豊かに鳴りすぎているのかなって思う程です(笑)。
ただ、これは計測をしたわけではなく、あくまで印象なので。
機会があれば何故他社のスピーカーだと疲れてムジークだと疲れないのか、その秘密を知りたいですね。
-あの公演では弊社にとっても貴重な経験をさせていただき感謝しています。最後に一言お願いします。
実は音の作業をヘッドフォンでするのはあまり好きでは無いんです。
旅先でどうしても作業しなければいけない時にはヘッドフォンになってしまうんですけど、
長時間作業するのであればスピーカーでやりたいなと強く思っています。
最近はヘッドフォンでしか音楽を聴かない人も増えてきていますし、
世代によって音楽の聴き方が変わってきているのかなという印象があります。
確かにヘッドフォンのほうが細かい音も聴こえるし、空間に依存するリバーブ成分のようなものはありませんから純粋な音で楽しめると思います。
でも自分が作った音楽は、もちろんヘッドフォンでも聴いてもらいたいのですが、スピーカーで鳴らして空間として聴いてもらいたいですね。
レコードで音楽を聴くように、ある程度ノイズがのったものでも楽しめるっていうのが音楽の良いところだと思いますから。
-本日はお忙しい中ご対応いただき、ありがとうございました。
真鍋大度 プロフィール
- 東京を拠点としたアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。
2006年Rhizomatiks 設立、2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Researchを石橋素氏と共同主宰。
身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテイメントの領域で活動している。http://daito.ws https://research.rhizomatiks.com/