メニュー

Marihiko Hara x musikelectronic geithain - イースタンサウンドファクトリー

WORKS導入実績

原摩利彦(音楽家)  インタビュー

marihiko hara

 

 

音楽家として野田秀樹さんや坂本龍一さんに実力を認められ、自身の音楽制作の他に舞台や映画の音楽等を数多く手がけられている原摩利彦さんは2018年からmusikelectronic geithain(以下ムジーク)のスピーカーを使っていただいております。

今回は2019年11月16日~2020年2月16日の期間 東京都現代美術館で行われた個展 『ダムタイプ|アクション+リフレクション』の設営の為に上京されたタイミングでお話を伺う時間をいただきました。

 

 

-今お使いのモニタースピーカーはRL906だと伺っておりますがいつ頃から使用されていますか?

 

2018年の夏頃です。

当時zAkさん(*)のスタジオに行ったときにミキシングルームの外にRL906があって、今日は使わないのですか?と尋ねたら 今は使ってないんだという事を仰ってて、それであれば使わせてくださいとお願いして使わせてもらったのが最初です。

 

 

image.png

 musikelectronic geithain RL906 Ash Black

 

*zAk=忌野清志郎やFISHMANS, Baffalo Doughter, くるりなどの作品を手がける一方でライブや舞台芸術のPAオペレートもこなす国内屈指のサウンドエンジニア 

 

 

 

-ムジークを知ったきっかけがあれば教えて下さい

 

ムジークはずっと存在は知っていましたが、じっくりと聞いたのはダムタイプ(**)オフィスで聴いたのが初めてでした。すごく音質が良くて、小さな音の粒がスピーカーの間にある様な感じが衝撃的でした。

先程お話したように 2018年にzAkさんのスタジオでセッティングして改めてしっかりと聴いたのですが

すごく滑らかで綺麗でした。しかも平面的な音でなく立体的に鳴っていました。

zAkさんとも この鳴り方はすごくいいですねという話をしたんです。zAkさんは僕の音楽とムジークはすごく親和性が高いよと仰っていましたし、僕自身もそう思いました。

その時ちょうど1ヶ月ほど東京で仕事をしているタイミングだったので そのまま持ち出させてもらい さっそくRL906を使って作業を始めました。

 

**ダムタイプ=dumbtype 映像、ダンス、音楽、デザイン、コンピューター・プログラムなど異なる背景をもつメンバーにより構成された日本を代表するアーティスト集団。プロジェクトごとにメンバーや表現方法を変化させながら、マルチメディアを使ったパフォーマンスやインスタレーションを中心に国内外で活動中。

 

-実際に使ってみてムジークの使用感や印象を教えてください。

 

そのままの音、正確な音という人もいらっしゃるんですが個人的な感想としてはもっと「冷静な音」という印象です。冷静な音ではあるんですがどこか奥深い、そんな音だと感じています。

 

-なるほど、機材を扱っている身としてはついつい特性がフラットで正確なのでモニターとして優秀ですよなんて言いがちなんですが、

その通り、フラットでモニターとして優秀だから良いと仰る方もいれば そこまでフラットかと言われるとそうでもない気がするけどとにかく音楽的に鳴るから良いと仰る方も居ます。ありがたいことに概ね良い評価ではあるのですが、人によって捉え方が違うのが面白いなと思います。

 

そうなんですね、使っている方によって優先される事が違ってくると思うのですが、
僕はエンジニアではなく作曲家なので作品を作りたくなるような、創作意欲を掻き立てられる音の方が良いです。ムジークはそんな音だと思っています。 

 

例えば低音が強調されているスピーカーの音を聴いて"低域が強調されている"という事は分かるのですがフラットな音=正確な音というものを しっかり理解できているわけではありません。

コンピューターでシンセの音を作ることを想定してお話をしますが、そのシンセの音の”本物”とはどういう音なのかハッキリと分かるものものではないと思っているからです。
それはずっと分からないままなのかもしれませんが、ムジークから出た音というのはその実体が無くはっきりしない”本物”の音に近いんだろうなと思わせてくれるんです。それだけの説得力があり信頼できる音だと感じています。
スピーカーに説得力があるので周りの機材、 I/Oやミキサー、それらを繋ぐケーブルも良いものにしたくなる、インスパイアされるようなスピーカーだと思っています。

 

音質についてもう1つ具体的な印象を挙げると低音もよく聴こえると思っています。

このよく聞こえるというのは迫力があるという意味ではなく、ちゃんとそこにあるのが分かるという意味です。小さめな音でもちゃんと定位も奥行きも分かるんです。これは繊細な音を作るときにはとても重要なことです。

 

 

-ありがとうございます。今少しお話が出ましたがムジークの他に音楽制作をされる際に使用されている楽器や機材を教えていただけますか?

 

MacBook Pro RetinaからRME fireface UCX そこからSSL(Solid State Logic)の SiXというアナログミキサーに繋いでそこからムジークにBelden 88760のケーブルで繋げています。

 

-DAWは何を使われていますか?

 

僕はPro ToolsとAbleton Live、それと最近はCubaseをメインで使っています。

最近はあまり使用しなくなりましたがStudio Oneも用意しています。
元々はDigital Performerを使っていましたが今はケースによって使い分けていますね。

 

-それぞれのDAWの棲み分けや使い分けのようなものはあるんでしょうか?

 

Pro Toolsは編集作業で使っています。

Ableton Liveについてはファイル名を先に決めなくても良いんです。つまり即興性が良いので、アイディアが思いついたらすぐに作る時に使用しますし、お芝居のクリエイションなどでは即座に作らないといけない状況があるのでこういったケースでもメインで使用しています。また公演やパフォーマンスのライブオペレートの際にもAbleton Liveを使用しています。
最近はよりMIDIを含めたプロダクションをするようになってきたのでそういった場合ではCubaseを使用するようになってきました。
ただUSBドングルがあり、これを無くしてしまうと大変なので、バックアップ用にStudio OneとDigital Performerを用意している形ですね。
Digital PerformerはマルチchをサポートしているのでCubaseが使えなくてマルチchを扱わなければいけないときの予備にもなります。

 

-それだけ色々なフィールドで活動されているという事だと思いますが、色々とソフトウェアを駆使されているんですね。

 

そうですね。ただCubaseを導入したのは最近です。

それこそムジークを手に入れた直後ぐらいから使用し始めました。

 

-今DAWや機材の事をお話いただきましたが楽器はどうでしょうか?

 

楽器はピアノを演奏します。生のピアノを使う時もありますし、ソフト音源を使うときもあります。

 

 P1025162

京都にある原さんのスタジオ。特注色仕上げのRL906が確認できる。ディスプレイにはムジークと同時期に使い始めたというCubaseが立ち上がっている。

 

-ありがとうございます。今回はせっかくなので音楽的な事もお伺していきたいと思います。

音楽はいつ頃からはじめられましたか?

 

作曲の勉強を始めたのは中学生の頃ですね。中学校3年生だったと思います。
大学に入ってからコンピューターを手に入れて、それからは電子音楽も作るようになりました。

 

-中学生の頃作曲を始めようと思ったきっかけのようなものは何かあったのでしょうか?

 

クラシック音楽の作曲家達、特にベートーヴェンの曲に魅せられたのがきっかけですね。

なぜこういう音が出るんだろうと不思議に思っていたのですが、それは作曲を勉強したら理解できるらしいという事が分かったんです。

それから僕自身は楽譜通りではなく自由に弾くのが好きなんですが、手癖や感覚に頼っているとどうしてもマンネリになってしまいます。 そうなったときに作曲理論を知っていると世界が広がると思ったからです。

ただ中学生で作曲の勉強を始めた当時は(始めるのが)遅いと言われましたね。ピアノはもっと前からやっていましたけど、今作曲を勉強している学生さん達は僕が始めた頃よりももっと小さい頃からやってるみたいですから。

 

-なるほど、今ベートーヴェンという名前が出ましたが原さんの作品にはやはりクラシック音楽の影響が強いのでしょうか?

 

BON JOVIもです。2回ドーム公演行ってますので。

特別ロックが好きというわけではなかったのですが、洋楽が好きだったんです。

昔WOWOWで海外の音楽番組を放送していて、そこで演奏していたBECKとかJOAN OSBORNEなどを見てかっこいいなと思っていました。その影響もありますね。

 

 ーそれは少し意外な感じがしますね。

それでは作品についても伺っていきたいのですが、原さんの作品はフィールドレコーディングした音も使われてるのが印象的だと思っています。それらをどうやって集めているのかが気になるところなのですが、外出される際にはレコーダーを常に携帯されているのでしょうか?それとも録ると決めてからレコーディングをしに行くのでしょうか?

 

両方ありますね、旅に出たりするときはレコーダーを持参しますが常に肌身離さず持っているわけではありません。

 

今みたいに僕の作品はよくフィールドレコーディングが特徴的だなんて言われる事が結構多いんです。
ですが、フィールドレコーディングの音を使った作品は僕のもの以外にも、それこそ2000年代のエレクトロニカなんかでは結構ありますよね。にもかかわらず そう言われる事が多いので不思議な感じがしますね。

 

 ー言われてみると確かにフィールドレコーディングを使った作品自体は多いですよね。

個人的にはその中でも原さんの作品は、ーこの表現が正確か分かりませんが、フィールドレコーディングの音とそれ以外の音の組み合わせ方というか混ぜ方に特徴がある感じがしています。

 

フィールドレコーディングの音を背景にするだけではなく、1つの独立したパートとして成立できるようにしています。

 

ー今のお話はとても納得できました。

私の個人的な意見ですとフィールドレコーディングを使った作品では音楽に対して1つ奥のレイヤーにフィールドレコーディングの音を配置しているものが多いと感じています。

それに対して原さんの場合はそれを音楽と同じレイヤーで扱ってらっしゃるので、それが特徴と言われる所以かもしれませんね。

 

音作りの事で言うと、昔とある人のインタビューを見た時に"1つのサンプルを何回もループさせるのはあまりかっこよくない"という様な趣旨の事を言っていてそれがすごく印象に残っているんです。
確かにその人の曲はすごくセンスがあって同じフレーズが出てきても同じ印象を与えないし飽きさせない、これはすごい事だなと思っているんですが、このコメントは僕にとってもすごくヒントになるものでした。

僕の場合はループとはまた違うんですが、ベターッと流すのではなく、ある所で一回消えて、それから再度現れて、という流れを作ることは意識しています。

 

ーありがとうございます。

今フィールドレコーディングについては色々とお話をしていただきましたが、それ以外で制作する上で気をつけている事や拘りはありますか?

 

今年アルバムをリリースする予定です。西洋や非西洋楽器、電子音などそれぞれが独立した動きを持ちながら、それらを合わせた時に1つの音響世界が出来上がるように作りたいと思って、作りました。

そのために それぞれのパートに強さをもたせるように意識していましたね。ほわっとしたものではなく意思をもたせるような音作りをしました。

ではそれは具体的に何なのかというと、実はイコライジングのちょっとした事だったりするんです。

例えばzAkさんに自分の音源を渡して簡単にイコライジングしてもらうとそれだけで自分のほわっとした曖昧な音がしっかりと意思をもったような 音になるんです。それはzAkさんのセンスに依るところもあるんですが、この作業が意思を持たせるという事とほぼイコールなので、この作業を突き詰めていくとい う事は意識していましたし、今も研究中です。

強い音というよりは弱くない音と言ったほうが正確かもしれませんが。

 

-それは 音色としてはほわっとした音であってもそのパートが在る意味がきちんと付随しているもので作品を構成していくという事でしょうか?

 

そうですね。これは主観的で感覚的な話になってしまうのですが、そういう事を意識しています。

 

原摩利彦 on Spotify 

 

-ありがとうございます。

さて、原さんはアルバムリリース以外に広告や劇伴やインスタレーションの音楽なども手がけられていますが、

自分の作品と、広告や劇伴では制作する上での違いはありますか?

 

ソロ作品では当然自分で判断をしますが コラボレーションする仕事のときは自分以外のディレクターがいる事が多いので、その前提でお話をしますと、ディレクターと向き合って「どうしましょうか」と言うのではなく ディレクターの見ている方向と同じ方向を見るように心がけています。

一緒に稽古場に入った時や話をしている時にこの人はこういう方向を見ているんだなというのを理解し、それを音で提示するようにしています。

それから自分では絶対に気が付かない所に指摘があるのはコラボレーションの仕事をする時の面白いところですね。

例えば30秒かけてピークに向けて展開を作ろうと思っていたところ、ここはスグに、5秒くらいでピークを作って欲し いというリクエストを受けたりもします。

そうなるといつも自分が制作している”時間感覚”と違う感覚の作品が出来るのですが、その経験は自分の ソロ作品にも反映されたりもするので、コラボレーションの仕事はとても勉強になっています。

 

-次のアルバムではそういったコラボレーションの仕事で得た経験もフィードバックされているような作品になりそうですね。いつ頃リリースの予定でしょうか?

 

6月頃の予定です。


-楽しみにしていますね。

さて、原さんはダムタイプにも参加されていますがダムタイプの中ではどのような事を担当されていますか?

 

ダムタイプはメンバーそれぞれが役割をもつというよりは、すべての事に干渉し合うという関係性があるので、
音関係だけではなく、ビジュアルの提案や意見もしますし、コンセプトに関しても意見を言います。
アレンキーでネジ締めとかもやりますよ(笑)
そういう事をやれるのは面白いですね。

他の現場ではそういう事はほぼありませんし、やろうと思ってもやらないで下さいと言われることもあるので。
だから、原点と言えるかは分かりませんが、ダムタイプに参加すると"立ち返れる"という感覚はあります。


-3月にダムタイプの新作パフォーマンス(***)が予定されています。どういった内容のものかが気になるのですが。

 

実はこの公演は今(1月末時点)のプランからは変わる気配があります。

1月のクリエイションで通したのですが、まだまだ内容が変わりそうなんです。曲も差し替わったりしそうですし。
ですので今お話してもあまり意味がないかもしれません(笑)

 

 ***=ダムタイプ待望の新作パフォーマンス『2020』 日時:2020年3月28-29日 会場:ロームシアター京都 サウスホール

 

-では本番までの楽しみとしてとっておきますね。

最後にこれからの予定などあればお知らせいただけますか?

 

3月のダムタイプのパフォーマンス後、先程お話したアルバムがリリースになるので、それに伴ってコンサートをやろうと思っています。

実は今回リリースになる作品の制作自体は昨年に終わっているんです。ですので次の自分の作品の制作も行っています。あとは新作の舞台の仕事もあります。

それと、これは再演なんですが3月にパリ・シャイヨー国立劇場で『VESSEL』(振付: ダミアン・ジャレ、舞台美術: 名和晃平)という坂本龍一さんと共作で音楽を作った舞台が上演されます。

お知らせについては随時webサイトやSNSで告知していきますので ぜひ公演にいらしていただけたらと思います。

 

-本日はありがとうございました。


原 摩利彦 プロフィール

  • 音楽家。1983年生まれ。

    音風景から立ち上がる質感・静謐を軸に、ピアノを使用したポスト・クラシカルから音響的なサウンド・スケープまで、舞台・現代アート・映画など、さまざまな媒体形式で制作活動を行う。アルバム《Landscape in Portrait》(2017)をリリース。振付家 ダミアン・ジャレによる舞台《Omphalos》(2018)の音楽を坂本龍一と共作。彫刻家 名和晃平のインスタレーション作品《foam》のサウンド・スケープを担当。野田秀樹率いるNODA・MAPでは、《贋作 桜の森の満開の下》では舞台音楽を30年ぶりに一新する大役に抜擢され、評判を呼び、舞台《Q》(2019)のサウンドデザインを手がけるなど、第一線で活躍するアーティストとのコラボレーション・プロジェクトも精力的に行っている。

    アーティスト・コレクティブ「ダムタイプ」に参加し、「ダムタイプ展」《Action & Reflection》(ポンピドゥーセンター・メッス、東京都現代美術館)、高谷史郎パフォーマンス《ST/LL》、《CHROMA》にも参加する。

  •  Twitter /  WEBサイト

  • MHP

CONTACT