オーディオ評論家 山本浩司先生 M20 試聴
オーディオ雑誌HiVi、ステレオサウンド等でハイエンドオーディオ評論をなさっている山本浩司先生の都内アトリエを訪ねました。
Q Acousticsのアクティブスピーカー M20を試聴、評価していただきました。
*本記事には先生が使用した作品が試聴できるようになっております。ぜひ聴きながらお読みください。
なおこの音源はSpotifyですので先生が試聴したソースとはフォーマットが異なります。ご了承ください。
試聴機材
- Q Acoustics M20
- Q Acoustics 3000iST (スピーカースタンド)
日本初上陸のQ Acousticsのアクティブスピーカー M20
アナログとデジタルの有線接続に加えてBluetoothによるワイヤレス接続にも対応
はじめに
今日はQ Acousticsから登場したM20というスピーカーの音を確認していこうと思います。
M20はBluetooth対応ワイヤレスアクティブスピーカーということですが、Q Acousticsのアクティブスピーカーは日本初上陸になります。
Q Acousticsが得意としているブックシェルフ型の2WAYシステムで、外観としては3010iや3020iを彷彿とさせます。
ドライバー構成は125mmウーファーと22mmツィーターです。 フロントのサランネットが取り外しできない仕様なので見ることはできないのですが、 おそらく樹脂系のウーファーにソフトドーム・ツィーターではないかと思われます。
アクティブスピーカーということですが、ステレオ・スピーカーのうち片方のスピーカーにL/R分のアンプと入出力端子が集約されています。 もう1つのスピーカーはパッシブとなっており、こちらの背面には入力用のスピーカーターミナル(バインディングポスト)のみが搭載されています。アクティブからパッシブの接続にはスピーカーケーブルを使用するタイプですが、今日はM20付属のスピーカーケーブルを接続しました。
対応している入力の種類に関しては過不足なく、今のホームオーディオにおける主要な入力にはおおよそ対応している製品といえます。
ワイヤードのデジタル入力はUSB(B), オプチカル(光)の2系統、 アナログ入力はRCAと3.5mmステレオミニの2系統です。そしてワイヤレス入力としてBluetoothによる接続が可能です。
それからアクティブサブウーファーへ接続するためのサブウーファー出力端子がついていますね。
ぼくはM20に使える適当なスタンドを所有していなかったので、今日はQ Acousticsのスピーカースタンド3000iSTに載せて試聴します。
ちなみに3000iSTはQ Acoustics 3010i/3020i対応のスピーカースタンドですが、Q Acousticsはこの3000iSTをM20対応のスタンドとして公式にアナウンスしています。
それでは、セッティングしていきましょう。
セットアップに関して難解さは一切ない、"EASY TO USE"なシステムです。 アクティブスピーカーをLchもしくはRchに設定する必要がありますが、これは背面のスイッチを切り替えるだけですので非常に簡単です。
今日はRchにアクティブスピーカー、Lchにパッシブスピーカーという設定にしています。 興味深いのは低域の再生レベルを切り替えるEQ切替機能が搭載されているところです。
設置の際に壁や部屋の四隅ぎりぎりにスピーカーを設置すると、どうしても低域過多のブーミーなサウンドになりがちですが、この機能を使うことでスピーカーのポジションに合わせて低域レベルを最適化できます。さすがにかよく分かっているな、と 感心させられる機能です。
今日はぼくが愛用している大型スピーカーJBL K2 S9900の前に設置しました。背面の壁から約1m、両側の壁面から約50cmの距離を取っており、フリースタンディングな状態ですので、壁のバッフル効果によって低域が不用意に盛り上がることのないポジショニングです。したがいまして、一番低域が出る設定のEQを選択しました。
M20(アクティブ側)のリアパネル
試聴
今日はM20内蔵のDACを評価する目的も兼ねて、ぼくが普段から愛用しているネットワークトランスポート LUMIN U2 MINIからM20のUSB入力に接続し、ハイレゾ音源を使って試聴していきます。
American Tune /Allen Toussaint/ AMERICAN TUNES
最初に聴いたのはニューオリンズの有名なピアニストであり、アレンジャーのAllen Toussaint(アラン・トゥーサン)の遺作となったアルバムから“American Tune”という曲です。
作曲はPaul Simon (ポール・サイモン)、メロディーにバッハの「マタイ受難曲」のフレーズが引用されています。
構成としてはアコースティックギターとピアノそしてアランのヴォーカルというシンプルなものです。
重力感があり深々としたピアノの響き、倍音成分をたっぷりと含んだアコースティックギターの音色、 そして太く潤いのあるアランの歌声が三位一体となって訴求してきますね。
この手のスピーカーには小さい音でも派手に聴かせるために低域や高域を過度に強調したいわゆる”ドンシャリ”な音である傾向がありますが、M20は至極真っ当な帯域バランスで再生しており、さすがQ Acousticsの製品という印象です
販売価格税込95,700円でこれだけ多機能な商品ですので、音の方は”そこそこ”かなと思い込みを持っていたのですが、いきなり音の良さに驚愕しました。これは過去に試聴した際に受けた衝撃の比ではない程の驚きです。
ぼくは職業柄こういったタイプのスピーカーを試聴する機会が多いのですが、 低域から高域にかけての音のバランスがこれほど整っているスピーカーは稀だと思います。これほどの素性であれば正しく使っている限り、どんな音楽を聴いても特定の帯域での欠落感や歪みを感じたりする事はないでしょう。
次の曲を聴いて確認してみましょう。
今年6年ぶりにリリースされたアメリカの女性シンガー&ギタリスト、シンガー・ソングライター Bonnie Raitt(ボニー・レイット)の最新アルバムから“Blame It On Me”を聴きます。
彼女のヴォーカルとスライド・ギター、それからベース、ドラムにハモンドオルガンという編成の曲です。
Blame It On Me / Bonnie Raitt / JUST LIKE THAT
実に素晴らしい。
ミディアムテンポのブルーズなのですが、非常に粘っこいグルーヴを出しながら彼女のブルージーな歌声と抜けの良いギター、それから深々としたオルガンの響きが聴けて、「本当に5インチ・ウーファーのブックシェルフスピーカーが鳴っているのか?」と思わされるほどでした。
それと特筆すべきは音がスピーカーにまとわり付かず、音離れが良い事です。描くサウンドステージが広大であり 横幅、高さ、奥行きを伴った立体的な音場を構築していることがよくわかります。
これはウーファーとツィーターを近接配置し、点音源に近いユニット・レイアウトをしている事とバッフル面積を小さくした事が効果的に作用しているのだと思います。
加えて今日の配置がフリースタンディングに近く、サウンドステージを汚す要素が少ない事も関係しています。音楽を聴く環境は人それぞれ千差万別でありますから、すべての人が今日のような設置環境を構築できるわけではありませんが、設置において壁面からの距離を確保することが重要ではあります。 まあいずれにしても恐ろしいポテンシャルを秘めた製品だと思います。
次はNils Lofgren(ニルス・ロフグレン)のACOUSTIC LIVEというアルバムから”Keith Don’t Go”という曲を聴きます。 このKeithというのは、どうやらローリング・ストーンズのKeith Richards(キース・リチャーズ)の事のようです。
Keith Don't Go / Nils Lofgren / ACOUSTIC LIVE
ライブの雰囲気が非常によく録れている録音ですが、これは凄かった。
クラシックの世界ではよく”ホール プレゼンス”という表現がされますが、ホールがこの部屋の中に蘇ったような、広々として立体的なサウンドステージの中にアコースティックギターを演奏しながら歌うニルス・ロフグレンがありありと浮かび上がってきました。
しかも彼の声にしっかりとフォーカスがしぼられたような鮮明さです。音離れの良さは先程の曲でも感じましたが、この曲ではそれをより一層強く感じます。
ぼくの愛用する大型スピーカーK2 S9900ではなかなかこういう表現はできません。 もちろん音の厚みとかスケール感といった訴求力は、圧倒的に凄いわけですけれど。 しかし、音の立体的な広がりという面においては、M20はぼくのJBLを凌駕したと言えます。 この立体的な音の広がりは壁面からの距離をしっかりと確保できたセッティングが出来ている事も大きな要因なのですが、 それを差し引いたとしても よく出来た小型スピーカーだと言えます。
また、搭載されているウーファーは5インチ(125mm)なのですが、低域の不足感は微塵も感じません。 この曲で言うとギターの6弦5弦をオープンで弾いたときの厚みのある音は、とても5インチ・ウーファーが再生しているとは思えません。
This Foolish Heart Could Love You / Melody Grdot / Entre eux deux
ジャズ・シンガー Melody Gardot(メロディー・ガルドー)の最新作から”This Foolish Heart Could Love You”という曲を聴きました。
このアルバムは全編を通してPhillipe Powell(フィリップ・パウエル)によるピアノとメロディー・ガルドーのヴォーカルのみで構成されているシンプルかつロマンティックなもので、アルバムタイトルである「Entre eux deux」、日本語では「二人の間」という意味でありますが、正しくそういった雰囲気を醸し出しています。
特にこの曲では少し音量を下げて聴いてみると、まるで本当に近くで彼女が耳元で囁いているような錯覚を抱くほどの生々しさを感じました。
ちなみにピアノを演奏しているフィリップ・パウエルは2000年に没したブラジルの偉大なギタリストBaden Powell(バーデン・パウエル)のご子息です。
M20試聴中の様子、タブレット端末を介してLUMIN U2 MINIを操作している
続いてはMiles Davis(マイルス・デイビス)のKind of Blueを聴きます。
Kind of BlueといえばColumbia Recordsの”Columbia 30th Street Studio”というスタジオで録音された事はよく知られていますが、ここはもともと教会であった建物で非常に天井が高いスタジオだったようです。
ちなみにこのスタジオはGlenn Gould(グレン・グールド)が1955年にデビューアルバム、つまりゴルドベルグ変奏曲 BWV988 (1955)を録音したスタジオとしても有名ですね。
では1曲目So Whatを再生してみます。
So What / Miles Davis / KIND OF BLUE
さて、もはや説明不要の名曲ではありますが、少しだけ解説をすると、この”So What”はマイルスを含むセクステットの演奏です。
冒頭はPaul Chambers(ポール・チェンバース)のベースとBill Evans(ビル・エヴァンス)のピアノから始まります。
そこにJimmy Cobb(ジミー・コブ)のドラムとマイルス, John Coltrane(ジョン・コルトレーン), "Cannonball" Adderley(キャノンボール・アダレイ)の3管を加えた、あの有名なリフが始まります。
言わずとしれたモード・ジャズの名曲ですが、モードによる進行を主体としているため決められたコードとしては2コード、あとは自由に演奏するという作品です。
何回も聴いた曲ですが、改めて聴くと非常に美しく、緊張感がある演奏ですね。
現代の録音スタイルとは異なり、当時は「せーの」で録っていたのでミスのあったところだけをエディットして差し替えるという様な事はできません。 したがってメンバーは1音たりともミスができない緊張感の中で演奏しており、だからこその名演といえる作品です。
そういった緊張感やいい音楽を演奏しようというバンドの情熱が伝わってくる音でした。
ふと冷静になってこれがM20で再生されている事を思い出すと「これが9万円代のスピーカーから出る音なのか」と にわかには信じられない気持ちになります。
ぼくは今まで途方も無い時間と金額をオーディオに投じてきました。それを考えると今の時代はこういった比較的求めやすい価格の製品で手軽にここまでの感動を得ることができる。なんていい時代だろうと思いますね。
さて、ここまではいわゆるハイレゾ音源を試聴をしましたが、M20はBluetooth接続が可能ということですのでBluetoothを介しiPhoneとワイヤレス接続して試聴していこうと思います。
まずペアリングは非常に簡単ですね。付属のリモコン、もしくは本体に付いているボタンで簡単にペアリング完了です。
今回はAmazon musicとApple musicを使って聴いていきます。
スマートフォンとM20だけというオーディオシステムとしては最小の構成での試聴
春よ来い / はっぴいえんど / はっぴえんど
しんしんしん / はっぴいえんど / はっぴえんど
抱きしめたい / はっぴいえんど / 風街ろまん
風をあつめて / はっぴいえんど / 風街ろまん
横顔 / 大貫妙子 / pure acoustic
さて、色々と聴きましたが、「あれを聴いてみよう、これを聴いてみよう」と思い立ったらすぐに聴けて、「音もいいね」などと言って盛り上がれるというのは正しく今の時代ならではの楽しさだと言えます。
もう1つとても大事な点として挙げられるのはM20のストリーミング再生時の音質は、ぼくのようなオーディオマニアが聴いてみても、大きな不満が無いという事です。これだけの手軽さ、便利さがありながら音のクオリティは妥協していないところが流石だなという印象です。
今はほとんどの人がスマートフォンを所有していて、そこに入れたデータを再生したり、ストリーミングサービスを利用して手軽に音楽を楽しんでいる時代です。スマートフォンやタブレットをM20に接続してお気に入りの音楽を再生したら多くの人がぼくのように驚くのではないでしょうか。
まとめ
最後にもう1つこのM20の凄いところを挙げると、音量を小さくしても低域が寂しくならないし、逆に大きくしていっても音が破綻しない事です。
これは中々できるものではありません。この事だけとってみてもQ Acousticsというメーカーが「相当な手練」である事がわかります。
ぼくは今まで日本で発売しているQ Acousticsのパッシブスピーカーをほぼ全て試聴してきました。
特に3000iシリーズのコストパフォーマンスの良さには大変驚かされたのですが、このM20はそれとは別次元の驚きを与えてくれました。
それはパッシブスピーカーである3000iシリーズとは違い、M20がアクティブスピーカーであることのメリットを実感できたからです。 つまりM20はキャビネット、スピーカーユニット、パワーアンプ、制御・入力系統が最適化された1つの完結したシステムであり、そのメリットが最大限発揮されている製品なのです。
▼製品紹介
●Q Acoustics Bluetooth対応 アクティブスピーカー M20
- 製品仕様
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周波数特性 55Hz~22kHz
入力 アナログ: RCA, 3.5mm -
デジタル: USB (type B), OPT(オプティカル)
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ワイヤレス: Bluetooth
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パワーアンプ出力 65W x2
外形寸法 279 x 170 x 296 (HxWxD/mm) -
重量 5.5 kg (アクティブスピーカー)/ 5.1 kg (パッシブスピーカー)
ご不明点やご購入を検討する際は、弊社までお問い合わせください。
上記ストアで販売中です。 不明点等お気軽にお問い合わせください。
●ESF FOR RENT (ESF取り扱い製品貸し出しサービス)
イースタンサウンドファクトリーが取り扱う製品を、お客様ご自宅の環境で試聴して頂ける試聴機貸出サービス(保証金必須)をご用意致しました。
試聴後製品が気に入られた場合、デモ機を返却していただき新品製品をご購入いただけます。デモ機の正常動作が確認でき次第、保証金は 全額返還 致します。
ぜひお試しください。
●山本先生のこれまでの弊社取り扱い製品試聴記事も是非合わせてご一読ください。
・Q Acoustics 3020i/audiolab 8300A・CD
・Q Acoustics 3010i/3020i/Concept20
・Q Acoustics 3050i/audiolab 8300XP
山本浩司先生 プロフィール
- ステレオサウンド社の雑誌「HiVi」「ホームシアター」編集長を経て、オーディオ・ヴィジュアル評論家へ転身。最新のオーディオ&ヴィジュアル機器を雑誌やWEBで評論している。